〜第六話 「時をかける少女」プロローグ〜


天香學園中庭――――夜


【男子生徒】
 ちッ、夜の校舎ってのは不気味だぜ。

【寡黙な声】
 いい夜だ……。

【男子生徒】
 ――――ッ!?

【寡黙な声】
 参之「えい」の川田だな?

【男子生徒】
 だッ、誰だッ!?
 誰だよッ?隠れてないで出て来いッ!!

【寡黙な声】
 何故、このような時間に校舎の近くを歩いている?
 放課後に校舎内に入る事は《生徒会》の定めた校則で禁じられている筈だ。
 その禁を破ろうとする者は処罰しなければならない。

【男子生徒】
 処罰って…。まッ、まさか、お前は、執行委員ッ!?

【寡黙な声】
 だとしたら、どうする?

【男子生徒】
 おッ、おい待ってくれよッ!!
 俺はただ忘れ物を取りに校舎の方へ来ただけだ…。中には入ってないじゃないか?

【寡黙な声】
 規則を破る前に罰を下すのもまた《生徒会》の役目だ。

【男子生徒】
 ふッ、ふざけんなッ!!何でそんな規則に縛られなけりゃならないんだよ。
 そもそも、生徒会が勝手に決めた校則を守る義務なんて俺たちにはないぜッ?
 そうだろッ?

【寡黙な声】
 この學園を支配しているのはただの生徒会ではない。
 《生徒会》という特別な者たちだという事を忘れるな。

【男子生徒】
 何が特別な――――、    [SE]チャキーン
 ぎゃァァァッ!!

【寡黙な声】
 安心しろ。峰打ちだ……・
 お主には、他の生徒たちへの見せしめとなって貰う。

【男子生徒】
 うう……。    [SE]ドサッ

【耳障りな声】
 さすがだな。

【眼帯をした男子生徒】
 これで正しかったのか?

【耳障りな声】
 もちろんだ。この生徒は規則を犯そうとしていた。
 悪は罰せられなければならない。

【眼帯をした男子生徒】
 ……。

【黒い影】
 甘い事を考えているのではないだろうな?
 規則を犯してからでは遅すぎるのだ。

【眼帯をした男子生徒】
 ……。

【黒い影】
 世の中を見ろ。
 誰かが殺められてから、その加害者を処罰したとしても、死者は甦らない。
 戦争が起きてから、それを止めようとしても、失われた物は元には戻らない。
 起きてしまった事に対して何かをしようとしてそれにどんな意味がある?
 悪の芽は早い内に摘まなければならない。
 《生徒会》や《執行委員》によってな。
 この學園は《生徒会》の崇高なる秩序によって管理されるべきなのだ。

【眼帯をした男子生徒】
 秩序か……。

【黒い影】
 そうだ。

【眼帯をした男子生徒】
 ……。

【黒い影】
 そういえば、もうひとり――――悪の芽を発見した。

【眼帯をした男子生徒】
 ……?

【黒い影】
 3−Cの葉佩 九龍。先月、この學園に来た《転校生》だ。

【眼帯をした男子生徒】
 葉佩だと?《執行委員》を次々に斃しているという強者か?
 実は、拙者も気にはなっていた。

【黒い影】
 強者?そいつは、卑劣な罠を張り巡らして《生徒会》の者を斃し、
 自分がこの學園を支配しようと目論む――――邪悪なる意思を持つ者だ。

【眼帯をした男子生徒】
 何と――――。では、斃された《執行委員》は《転校生》の罠に嵌ったと?

【黒い影】
 そうだ。

【眼帯をした男子生徒】
 くッ、正々堂々と戦わず、奸計を仕組み陥れるとは、《転校生》め……許せぬッ!!

【黒い影】
 仇を討ちたいか?

【眼帯をした男子生徒】
 無論だ。

【黒い影】
 では、我が力を貸してやろう。二人で葉佩を――――、

【眼帯をした男子生徒】
 手助けは無用だ。

【黒い影】
 ……。

【眼帯をした男子生徒】
 拙者も武士の端くれ。
 正面から正々堂々と名乗りを上げ、堂々と勝負を挑み、見事、堂々と打ち破ってくれる。
 《執行委員》の名に懸けて……な。

【黒い影】
 相手は只者じゃない。そんな木刀で斃せるのか?

【眼帯をした男子生徒】
 心配無用だ。
 よしんば、その者が真の武士だったとしても拙者の剣で斬れぬものはない。
 ……。
 きえェェェェッ!!    [SE]チャキーン
 ふッ。
 葉佩 九龍……、せいぜい首を洗って待っているがよい。
 拙者が引導を渡してくれる。
 それでは、御免――――。   [SE]ザッザッ

【黒い影】
 ……。
 単純な奴だ。
 だが、これでまた月の青白い光と共に、學園に混沌の風が吹く。
 フッ。
 クククッ……。
 《転校生》と《生徒会》――――どちらが斃れてくれても我にとっては好都合。
 學園の《幻影》が、かりそめの影から這い出て、この學園を支配する日も近い。
 しかし、石を木刀で真っ二つにするとは凄まじい《力》よ。
 《転校生》と《生徒会》の戦いを見物させて貰うつもりだったが、
 どうやら、《転校生》の命運もここで尽きる事になりそうだな。
 まァ、いい……。そうなれば、別の手を使うまでだ。
 この呪われた學園を覆う闇はいたるところにある。
 クククッ……。
 アーハッハッハッハッハッ!!