〜第六話 「時をかける少女」午前パート・教室にて〜


【七瀬】
 それじゃ、葉佩さん。私も行きますね。

【寡黙な声】
 どけ、女――――。

【七瀬】
 あッ、ごめんなさい。

【眼帯をした男子生徒】
 お初にお目にかかる。
 拙者、参之「びい」に世話になっておる真里野 剣介と申す。

【真里野】
 つかぬ事を聞くが、お主の名は?

『名前を名乗る』

【真里野】
 葉佩 九龍――――、やはり、お主がそうか。

『名前を名乗らない』

【真里野】
 どうやら、礼節を知らぬようだな。
 名乗りたくなくば、それでも構わぬ。
 だが、お主が、葉佩 九龍であろう?
 先刻、共にいた者たちに名を呼ばれていたのを見ておったわ。
 潔くない奴よ……。武士とは、常に正々堂々としておる者の事。
 拙者、何事も正々堂々としておらねば、許せぬ性質でな。



【真里野】
 噂によるとお主、随分と腕が立つそうだな?
 その腕に敬意を表し、拙者も正々堂々と素性を明かして進ぜよう。
 剣道部の主将というのは世を忍ぶ仮の姿――――。
 拙者の真の姿は、《生徒会執行委員》。
 つまり、お主がここまで戦ってきた者と同じ《呪われし力》を与えられた者よ。
 同胞が斃されていくのを見て、お主と手合わせをしたく、ここまで参った次第だ。
 どうだ?拙者とひと勝負しては貰えぬか?

『友』

【真里野】
 我が剣の道に友などはおらぬ。ただ、血臭と骸が連なっておるだけよ。
 いや――――唯一、友といえるとしたら、それは拙者と対等に戦える相手やもしれぬ。

『燃』

【真里野】
 ほう……中々の慧眼よ。手合わせせずとも拙者の腕を見抜くとはな。
 ますます、遣り合ってみたくなったぞ。

『喜』

【真里野】
 拙者と巡り会えた事が斯様に嬉しいか?
 だが、だからといってお主との勝負に手を抜く事はできぬな。

『愛』

【真里野】
 何と……衆道に通ずる者がこの学び舎におったとは。
 だが、それしきの事で、拙者に勝ったと思わぬ事だ。

『憂』

【真里野】
 お主にその気がなければ、その気にさせるまでよ。

『悲』

【真里野】
 不甲斐無き者よ。斯様な覚悟で、お主は歩んできたと申すのか?
 よかろう。拙者がその性根を叩き直して進ぜよう。

『寒』

【真里野】
 お主にその気がなければ、その気にさせるまでよ。

『怒』

【真里野】
 まあ、待て。いきり立たずとも、いずれ、相手をしてやるわ。

『無』

【真里野】
 お主にその気がなければ、その気にさせるまでよ。



【清楚な女の声】
 どうしたの、葉佩君?

【真里野】
 む……ッ!?

【雛川】
 おはよう。
 あなたは、B組の子ね?真里野くんだったかしら?

【真里野】
 ……。
 葉佩 九龍よ。続きは、後でだ。
 正々堂々とこの事は他言せぬよう。
 それでは、御免――――。